たまたまこの本を手にとったのは、新潮文庫のブックカバーのキャンペーンをやっていたからなのだが、読んでみると話にグイグイ引き込まれた。内容は主人公である嵯峨野リョウが恋人で死んでしまった諏訪ノゾミの弔いをしに金沢の東尋坊に来たところ、転落してしまい、気づくとパラレルワールドの世界に来ているというものである。パラレルワールドではリョウは生きていなくて、嵯峨野家はサキという女子高生がいて、二人が協力してパラレルワールドからの帰還を探るというものだが、話はそう単純ではない。読み進めていくうちに、生きている意味について強く問いかけをしてくるのである。リョウのいた世界とサキのいる世界の違い、リョウの心情の変化というか徐々に気づいて行った内容、そうしたものが後半になると絶望感に変わってくる。ラストは結構曖昧で、リョウがどうしていくのか疑問が残る、というか読む人に考えて欲しいのだと思うが、唐突感が残り、すっきりしない。しかし、SF的設定を使いながら、青春小説として、また人間ドラマとして読み応えのある1冊だと思う。
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