稲田豊史著「映画を早送りで観る人たち-ファスト映画・ネタバレ-コンテンツ消費の現在形」光文社新書

稲田豊史が書いた「映画を早送りで観る人たち-ファスト映画・ネタバレ-コンテンツ消費の現在形」を本屋で目にしたのは偶然である。しかし、タイトルにもあるファスト映画にまつわる著作権違反容疑で逮捕事件が起きたことは知っていたので、その件も含めて、内容的に面白そうだったので、購入して読んでみた。

本の内容は、特に若年層を中心に映像作品を早送り、倍速再生、途中テンポの悪いシーンをスキップして視聴し、それを映像鑑賞だと言い張るところに疑問を感じた稲田豊史氏が、若者を中心に意見を聞きながら、なぜ、若者を中心に映像作品を通常速度で見ないで、倍速再生や、スキップ、果ては作品を見る前にあらすじとネタバレを知ってから作品本体に接するという50歳代の映画ファンの僕からしたら想像を絶する事柄について、深く追求しているのが特徴である。

若者が映像作品を倍速再生したり、スキップしたり、ネットで事前にあらすじとネタバレを知ってから作品に接するという事柄を起こすのには、一つには映像作品がネットで大量に提供され、供給過多になっている部分もあるし、若者文化として友人とのSNSでのコミュニケーションで話題の映像作品についていかなければ、取り残されるという不安、社会人になるのに必要なスキルとしてオタク的スキルが求められているにも関わらず、それを取得するのに地雷を踏んでまで映像作品に接したくない、正解だけを早く知りたいという欲求、情報処理能力が昔の人よりはるかに上がっている事実など、幾つもの事例が挙げられている。

この本を読んで、それらの事実は理解できるものの、それでも20歳の時から映画を見続けてきた者としては、「そんなスタンスで映画やドラマを見て、本当に映画やドラマを見たことになるのか?」という疑問が残ってしまうし、少なくとも僕はそのスタンスでは映画やドラマは視聴したくはないと思う。僕も多分映像オタクなのだろうと思うが、そこに至るまでは色々な映画を見てきている。面白かった映画もあれば、見て失敗した、つまらなかった、という映画もいっぱい見てきている。それを含めて自分の心の豊かさを向上させてきたのが、映画鑑賞であると思っている。それを踏まえると、少なくとも今の若者(だけとは限らない。映像をスキップしたりする行為は高年齢層にも広がっているから)は、そういう心の豊かさには無頓着であるとは言ってもいいかとは思う。

本を読んでて気になったのは、「映画評論が評価されない」という事実である。僕はサイト運営で映画の鑑賞の感想やレビューを書いているが、アクセス数が芳しくない。あらすじは書いてはいるが、ネタバレは避けるように書いているし、感想、レビューも僕個人の見解である。そう言ったものが現在の人には支持されていないという事実は、僕の運営するサイトでアクセス数が悪い理由の一つに挙げられる可能性はある。最も、僕の運営するサイトはGoogleにあまり認識されていないせいもあって、インデックス化が進んでいないこともあるので、この本の事実だけが原因だと断定もできないのだが、それでも理由の一つとして、結構衝撃であった。

稲田豊史氏も最終章では、この若者たちが納得するための今後の映像作品の作り方やプロモーション方法などの案を提示しているし、必ずしも全てを否定するような内容にはなってはいないが、それでも稲田豊史氏も最終的には「映画を早送りで観るなんて、一体どういうことなんだろう?」という疑問が晴れることはないところからも、全体のトーンとしては、この映像視聴方法には否定的であるように感じる。ただ、今の映像作品に対する若者を中心にしたスタンスを知るという面では、この本は大変面白い。本を買って1週間で読み切ったのは本当、久しぶりで、それだけ内容的に充実していたと思う。映画が好きな人は、この本を買って、現在の若者を中心にした映像作品への接し方を知っておくだけでも、いい知識になると思う。

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