コロナ禍がようやく落ち着きを見せ始め、人々が旅行を再開するようになってきた。しかしながら、日本人の旅行に対する関心は低い。正確に言えば国内旅行に対する関心はあるようなのだが、海外旅行に対する関心をコロナ禍で失ってしまったかのような感触を覚えている。もちろんニュース等では長期休暇で海外に旅行に行く人々を映し出しているが、その人数はかつての旅行者の数からするとやはり少ない。
コロナ禍の中でも海外旅行を続けてきた旅行作家の下川裕治は、旅の先にある桃源郷を探し、それについて様々な桃源郷を指し示す事で、旅行に対する想いを、旅行をしなくなった日本人に対して思い出させようとしている。そのいくつかの事例を紹介したのが、この「旅する桃源郷」である。
自分が普段住んでいる土地とは違う旅行先で見つけた理想郷、それを桃源郷というが、下川裕治はこの本の中でいくつかの街を紹介する事で、彼が旅の中でどのように桃源郷と感じるようになったかを表現している。
この本を読みながら、「では、僕にとっての桃源郷とはどこだろう」と自問していた。もう一つ開設しているサイトのサブタイトルに「映画と旅行の偏愛」とつけているように旅行は好きである。特に2011年以降、コロナ禍に入るまでは毎年どこか旅行に出掛けていた。アジアが中心だったが、僕にとっての桃源郷がどこかと言われると、沖縄のような気がする。数年ごとに沖縄に旅行に行き、そのたびに知らない土地を散策し、地元の大衆料理に舌鼓を打ち、行くごとに沖縄に恋をするということを繰り返していて、飽きがこないしその土地柄、風土が落ち着くのである。今年もGWに石垣島と与那国島に行き、今の所11月の連休にも沖縄本島に行くつもりでいる。僕にとっての理想郷と言ってもいいのかもしれない。
ただ、コロナ禍が落ち着きを取り戻した今、目標は来年だがそろそろ海外旅行再開を検討してもいいのではないかと思っている。文化の全く違う土地、言葉の通じない国、そういうところに旅に行くというある種のリスクを負うというところに不安もあるが楽しみもあると思うのである。コロナ禍で日本に閉じ込められていたため、日本の外に出たい、という意識が芽生えてきている。
かつて旅行が好きだったがコロナ禍で旅行のことをすっかり忘れている人にとっては、この本は旅行に対する好奇心を呼び戻してくれるきっかけになる本ではないかと思う。もちろん、読者にとっての桃源郷は人それぞれでこの本に書かれている土地ではないとは承知の上だが、それでも旅行の楽しさを忘れてしまった人に対するリハビリ的な文章になっていると思う。
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