下川裕治著「沖縄の離島 路線バスの旅」双葉社

下川裕治と言えば、沖縄関係の書籍をいろいろ著述している旅行作家である。その下川裕治が久しぶりに沖縄について著作したのが、この「沖縄の離島 路線バスの旅」である。でも、下川裕治のことだから、単なる路線バスの旅になるはずもない。これまでもアジアの全鉄道路線制覇とか、ユーラシア大陸を鉄道やバスで走破するといった過酷な旅を経験している旅行作家であるから、今回も単純な路線バスの旅になるはずもない。今回の路線バスの旅は、沖縄の離島を走る路線バスを全路線制覇するというかなり無謀な企画になっている。

この本は、書き下ろしではない。双葉社の運営するサイト「TABILISTA[タビリスタ]」と朝日新聞が運営しているサイト「朝日新聞デジタル &トラベル」で連載していた記事に大幅加筆訂正を加えたものになっている。僕はすでに「TABILISTA[タビリスタ]」でこの内容の大半を読んでいたから、目新しいものではなかったが、それでも内容は面白い。沖縄はアジアの雰囲気のする土地ではあるが、それが離島の路線バスにも波及しており、1日に数本しかない路線のうち一本が通常の路線と異なるコースを走るとか、朝夕の学校の通学に使う生徒がいれば、その学校まで走るが、いなければ走らない、という路線があったりと、一筋縄ではいかないのである。

そうした日本本土では理解できない独自の論理を持つ沖縄の離島の路線バスの運行に振り回されながらも、全路線制覇に挑む下川裕治の悪戦苦闘ぶりがとても面白く、一気に読み進めてしまった。しかし、それにしても路線バスなど走っていないだろうと思われる沖縄の離島にも実は路線バスが走っていたりするのは、結構ためになった。この知識は普段では全く役には立たないが、僕も2,3回行ったことのある竹富島にも路線バスが走っているという事実には、少々驚きである。

この「沖縄の離島 路線バスの旅」は、コロナ禍の合間を縫って実行されたため、結構時間はかかっている。沖縄の離島は、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために、観光客の受け入れをかなり強く拒否していたからである。離島に渡りたくても、渡ることができない日々が続き、そのために時間がかかっている。そうした側面もこの「沖縄の離島 路線バスの旅」がいかに困難であったかがわかるようにはなっている。

離島の路線バスの制覇の合間には、コラムが掲載されているが、これは一部僕にも頭をかしげてしまう内容もあった。例えばだが、今の沖縄の若い女性の間では、「沖縄そばはおじさんが食べるもの」という認識があるとか、居酒屋で「泡盛を飲まない」といった生活の変化が見られる、といったような内容が満載なのである。沖縄好きで、沖縄そばを食べたいと思っている僕的には、「沖縄そばはおじさんが食べるもの」という沖縄の若い女性の認識にはショックを受ける。僕も立派なおじさんだから文句はないのだが。

いろいろな側面はあるというものの、現在の沖縄の離島の状況を学び直すという面において、この本は結構役に立つ本ではないかと思っている。僕自身も知らない沖縄の離島について、結構勉強になったし、何より路線バスの制覇に悪戦苦闘する下川裕治のドタバタぶりは面白い。なかなか旅行に行きづらい状況は続いているが、この本はそういう旅行好きの好奇心を掻き立てる内容になっていると思う。

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