2023年のサマーシーズン・ムービーの中で、日本公開未定の「オッペンハイマー」と共に世界的に大ヒットを記録し続けている映画が、この「バービー」である。世界的にヒットを記録しているためにSNSで「バーベンハイマー」という造語を生み出した挙句、原爆のキノコ雲をコラージュしたイラストが多数作られ、それを公式アカウントが好意的にとったために日本で反発が怒り、配給会社がお詫びをせざるを得なくなった作品ではあるが、「バービー」自体は原爆とは何の関係もない作品であるし、「バービー」を見ないとか、日本公開を中止しろとかSNSで息巻いていた人たちは、映画を見てから文句を言え、と言いたくなってくる。「オッペンハイマー」で文句を言うのならば多少は理解できるが。
最初は「女の子の遊ぶ人形であるバービー人形を実写映画化したものか」とあまり関心が向かなかったのだが、「バーベンハイマー」騒動や、その後の映画を見た評論家からの好意的な評価を目にして、返って映画そのものに関心が向き、上映劇場を調べたところDOLBY CINEMAでの上映があると知ったので、実家に帰省した折に僕としては初めての劇場になるT・ジョイ横浜のDOLBY CINEMAでの「バービー」鑑賞となった。
映画そのものはかなりポップな色使いとストーリー展開であり、コメディやファンタジー要素を多く取り入れているのだが、実は物語のテーマはかなり深い。それはなかなか変わらない現実世界での男社会において、女性はどう生き抜いていくかというシリアスなテーマを笑いを取りながら深く掘り下げているからである。逆にいうと男社会そのものに縛られた現代の社会がそれでいいのか、という逆説的なテーマにもなっている。
物語はバービーランドというバービー人形が暮らす平和な社会でありふれたバービーに異変が起こり、その原因を追求するのと異変を正すためにバービーとケンが現実世界にたどり着き、そこで見た現実から社会の歪みを認識するという物語になっている。バービーがバービーランドを正常な状態に戻そうと奮戦するのも物語の見どころの一つだが、バービーの恋人であるケンが男社会の良さに目覚めてしまい、バービーランドをケンダムランドに改革してしまおうとする様は、現実世界の混沌とした様を反映しているようで、笑いをとりながらも結構考えさせられる内容にもなっている。
僕自身がバービー人形の世界観に詳しいわけではないから、笑いのツボがわかりづらい部分も無きにしも非ずだが、それでも映画「2001年宇宙の旅」の前半パートのパロディを初めとして、結構映画ネタが多いので笑えるし、ケンを演じたライアン・ゴズリングの名演がまた印象深く、物語を引き立てていると思う。そして、マーゴット・ロビー演じるバービーが次第に自我に目覚めていく様は、主人公の成長と自立という物語の王道を行く展開で、安心して見ることができる。
普段映画館で映画を観る際にはIMAXで見ることがほとんどなのでDOLBY CINEMAで映画を観るのは2年ぶりなのだが、初鑑賞となったT・ジョイ横浜のDOLBY CINEMAは観客席の傾斜がかなり急なので前列の観客の頭被りを気にすることなく鑑賞できるし、スクリーンの大きさもIMAXほどではないが割と大きいので没入感を感じさせる。そして、DOLBY VISIONによる色彩管理は「バービー」のポップなピンクの色調をとても鮮やかに表現していて魅力的である。DOLBY ATMOSによるサラウンドもちょっと強調しすぎじゃないの?というぐらいに前後左右上下に音が広がったり移動したりして、通常料金に追加料金を払うだけの価値はある仕様になっている。
日本ではバービー人形の人気が元々あまりない上に「バーベンハイマー」騒動で敬遠しがちになりそうな「バービー」だが、この映画は見るだけの価値が或るテーマを持った作品であり、世界的にヒットするのがわかる出来のいい作品であると言える。DOLBY CINEMAで見ろとは言わないが、映画館に行く気があるならば見るべき内容の映画だと思う。
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