ライターの平良竜次と映像クリエイターの當間早志が、沖縄で「NPO法人 シネマラボ突貫小僧」を運営しているのを知ったのは、割と最近である。この二人の名前は前から知ってはいたが、何をしている人なのかは、最近になってようやく理解し始めたところである。
「NPO法人 シネマラボ突貫小僧」というNPO法人を運営していて、沖縄における映画の振興に力を入れているということを知って、俄然興味が出てきた。そのNPO法人の代表と初期に関わった人物が共著で、1950年-1970年前後まで沖縄で雨の後の筍のように乱立していて、しかも現在は面影すらない映画館の存在を確認し、どのような経緯で開館し、どのような経緯で閉館していったのかを調査した本が、この「沖縄まぼろし映画館」である。
この本に出てくる映画館は、現在は全て閉館の憂き目に遭い、建物がなくて駐車場になっている跡地も多い。この本が出版されたときには唯一営業を続けていた首里劇場ですら、2022年11月現在は閉館している。その他の映画館は当然姿形はなく、その所在地すら判別し難い部分もある。
ただ、太平洋戦争終了後のアメリカ統治下の沖縄で、一時期とはいえ、沖縄県民が娯楽に飢えていて、映画館がそれを受け入れる余地があったという事実は紛れもないことである。この本では追いかけきれなかったが、離島の映画館もいろいろ存在していたらしいが、この本に出てくる映画館も、「なんでこんな僻地に」というような場所にすら存在しているのは、かなり戦後の文化の歴史としては興味深いところがある。
映画館はなくなってしまったが、その前を通っていた道路の名前に映画館の館名の影響があるのも、沖縄の特徴かなと思う。那覇の国際通り近辺に数多くの映画館が存在していたこと自体が、映画衰退後に沖縄に旅行に行くようになった僕的には、驚きの一言に尽きる。
そして、沖縄だけとはいえ、映画館の文化歴史を網羅した本というのは、珍しいのではないかと思う。読んでいて面白かったのだが、「沖縄の映画館の知識を得てどうするの?」という疑問は残ってしまったが。読んでいて、僕が生まれ育った神奈川県の映画館の衰退を思い出していた。幼少期には結構二番館が存在していたと思うのだが、次第にレンタルビデオに押されて閉館の憂き目に遭い、映画館がシネマコンプレックスに転換していくのを見てきたような気はする。この本の場合、沖縄本島の映画館の興亡を描いているので、レンタルビデオより早く、テレビ等の娯楽に押されて閉館していったパターンが多いと思った。
出版社自体が沖縄の県産本を出版し続けているボーダーインクなので、日本本土での入手は難しいかと思ったが、Amazonでは入手可能という意外な展開で、購入して読むことができた。映画館の跡地を探すという趣旨の本は、一見すると廃線になってしまった鉄道の路線を歩む行為に近いものがあるのではないかと思う。
映画ファンではない人には関心が湧かない本ではあるが、映画ファン、しかも劇場で見ることに情熱を燃やす人には、沖縄という数奇な運命を辿る土地での映画館の興亡を辿る意味では必見の本である。
コメント