新書 沖縄読本

1990年代から2000代前半は沖縄ブームだと言われる。観光旅行者は右肩上がり。沖縄の独特の文化、食、生活に魅了され、移住してしまった人も多い。そんな沖縄ブームの中で、一躍を担っていたのが、本書「新書 沖縄読本」を書き上げた下川裕治、中村清司、篠原章といった人たちの出版する本土で作った「沖縄本」であろう。彼らは沖縄を面白いところだと取り上げ、読者に沖縄の魅力を伝えていた。その集大成となる本が2002年に出版された「沖縄ナンクル読本」(講談社文庫)である。これは沖縄ブームの総決算ともいうべき本で、沖縄フリークなら一度は目を通しているはずである。しかし、そのブームもいずれは終了する。2008年のリーマン・ショック以降、急速にブームは終了していく。それと同時に以前から抱えてきた沖縄の問題が山のように噴出してきた。失業率問題、離婚率の多さ、精神疾患を抱えた人たちの増加、本土からの流入金の減少、もろもろである。これを受けて、下川、中村、篠原らは、現在の沖縄を再検証することにより、自分たちの作ってきた沖縄ブームがなんだったのかを明らかにしようとする。それが本書「新書 沖縄読本」(講談社現代新書)である。かつて沖縄を覆っていたブームという得体のしれないもの、これを明らかにすることで現在の沖縄を見直し、更に次へとつなげる試みがなされている。全部で21本のコラムがそれを物語っている。内容的には「沖縄ナンクル読本」のような面白さはない。かなり真面目に書かれた印象が残る。しかし、「沖縄ナンクル読本」や数多くの沖縄本で沖縄に魅了され、沖縄を訪問した者たちや、実際に移住してしまった人たち(その中には沖縄での生活水準の低さに耐え切れず本土に戻ってしまった人達も多い)にとっても「沖縄とはなんだったのか」と自問自答する機会が設けられたといってもいいかもしれない。新書判にしては分量が多いが、読み見ごたえのある一冊であるといえよう。

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