音楽プロデューサーとして名声を築いている松尾潔氏が、ジャニー喜多川の性加害問題や、その他のコラムについて一冊の本にまとめたものが、この「おれの歌を止めるな ジャニーズ問題とエンターテインメントの未来」である。
基本的には、日刊ゲンダイ連載の「メロウな木曜日」と、RKBラジオ出演の「田畑竜介Grooooow Up」の発言がメインではあるが、書き下ろし文章や、他の雑誌での対談も掲載されているので、ここ1-2年の松尾潔氏の意図がよくわかる内容になっている。
僕が松尾潔氏の意見に同意する点が多いのには、僕がファンである具島直子の名曲「Candy」を松尾潔氏がリミックスした「Candy -KC melts “miss.G” Remix-」が素晴らしい出来の楽曲であり、松尾潔氏の能力を買っているからだが、ジャニー喜多川の性加害問題に対して、エンターテインメント業界の中でただ一人、真っ当な意見を放ち続けていることにもよる。
エンターテインメント業界でジャニー喜多川の性加害問題についてはっきりした意見を述べる人がほとんどいないところからしても、松尾潔氏の存在は重要であり、この本の後に続くジャニーズ問題にも正当な意見を放ち続ける氏の姿勢には共感を覚える部分が多い。
その一方でこの本にはジャニーズ性加害問題とは全く関係ないコラムも数多く掲載されている。松尾潔氏の見解では「ラブソングと社会問題は地続きであってほしい」ということのようだが、その多面的な展開に読者である僕としては面白いものを感じた。松尾潔氏の推薦する本や演劇などには、好奇心を惹かれる面があった。
この本を読んで感じるのは、「真っ当なことを発言することが実は日本ではいかに困難なことか」ということではないかと思う。ジャニーズ性加害問題について僕も色々追っかけているが、Smile-Up.に社名が変わった旧ジャニーズ事務所は、性加害の補償に特化するはずが全くそうしていないし、それをマスコミも追及しないどころか「補償が進展している」と理解できない発言をして所属タレントを使いたくて仕方のないそぶりを絶えず見せつけている。この問題はジャニーズ事務所の問題だけでなく、マスメディアの問題でもあるのに、マスメディア自身が反省も何もしていないところが、あまり事件に関心のない人たちに対して、真相が伝わらない状況になっている。そうした状況の中で、知名度のある松尾潔氏が真っ当な発言をするというのは、一定のアラートをあげていることを示す目印になっているように思える。
ここまで書くと、重たい内容かと思いがちだが、文章は読みやすい平易な言葉で書かれているので、気軽に読めるはずである。エンターテインメント業界にいる松尾潔氏の真っ当な、でも気軽に読める文章を読んで、どう判断を下していくかは考えるべきだろう。
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