アジア、特にタイと沖縄に関する旅行の書き物が多い下川裕治が、珍しく日本国内について書いた本が「この一両列車のゆるり旅」である。日本国内と言っても、下川裕治のことなので、普通の人が選ばない旅をしている。JRの地方交通線をあえて選択して、ローカル特有の雰囲気を味わうという旅をしているのである。当然泊まるホテルも駅前旅館、というのを徹底していて、そのためにいくつかの駅を通り抜ける、ということをしている。写真も共同著者である中田浩資の撮影によるものが多数載っていて、視覚的に楽しめるようになっている。JRの地方交通線というと、本当にローカルで、その存在そのものが危うい状況になってきているが、それでもまだ存続しているのが不思議な乗り物で、いかにも下川裕治が選びそうな路線であると言える。1章あたりの文章が長く、少々読むのに手こずったが、旅が好きな人には、面白く読める内容ではないかと思う。真似をして、JR地方交通線に乗車しろ、とまでは言わないが、想いを馳せるのは悪くないと思う。
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