マーベル・シネマティック・ユニバースのフェイズ4の最終作にして、高い評価を得ている「ブラックパンサー」の直接の続編に当たるのが、この「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」である。今日から公開開始で、批評家や観客の評価はあまり目にしたり耳にしたりしていないのだが、正直、傑作だと思う。
この映画の特異な点は、スーパーヒーロー、「ブラックパンサー/ティ・チャラ」を演じたチャドウィック・ボーズマンがこの映画の制作前にガンでこの世を去ってしまい、ヒーロー不在のまま、どう物語を展開されるのかという最大の疑問を想像を絶する展開で押し切ったところにあると思う。
現実の世界でチャドウィック・ボーズマンはこの世を去っているのだが、映画の中でも冒頭でチィ・チャラが死ぬシーンが本人の描写なく描かれ、物語にティ・チャラ/ブラックパンサーがいなくなったワカンダで、残された家族や民たちがその死から立ち直っていない姿が描かれ、その描写に心打つものがある。
チャドウィック・ボーズマンの死を痛む描写は映画の至る所で描かれ、MARVEL STUDIOSのロゴは、全てチャドウィック・ボーズマンがマーベル・シネマティック・ユニバースで登場したシーンで構成されるし、彼が登場するシーンも実はある。ティ・チャラの妹であり天才科学者でもあるシュリの記憶という設定でだが。
物語は、ワカンダでしか産出されないはずの鉱石ヴィヴラニウムが実は海底でも発見され、それをアメリカが採掘しようとしていたが、海底の民、タロカンとタロカンを率いるネイモアという男がそれを阻止し、そのためにワカンダに疑念の目が向けられる。シュリやオコエは、その謎を解明する中でネイモアと接近し、シュリはネイモアと理解し合えるかと思ったが、ネイモア率いるタロカンはシュリとヴィヴラニウムの探査装置を開発した天才少女リリ・ウィリアムズがワカンダによって奪取されたため、ワカンダに攻撃を仕掛け、ワカンダとタロカンとの間で戦いが勃発してしまうという展開である。
ティ・チャラ不在の中、ワカンダの女性たちが活躍する様子は、今のウーマンパワーを実感させられるものになっているし、今後マーベル・シネマティック・ユニバースのDisney+ドラマ版で活躍するはずのリリ・ウィリアムズがこの映画で初登場するのも、見応えがある。そして、ティ・チャラはこの世を去っていても、映画のどこかでその意思だけは生き続けているというのが物語通じて貫かれている描写でもある。
今回のワカンダの敵であるタロカンも絶対的悪ではなく、思想の違いによる相対的悪なので、共感できる部分が多い。特にタロカンを率いるネイモアの生き様は、敵ではあるものの、悪ではないために物語として複雑な彩りを見せている。
映像はIMAX 3Dで描写され、奥行き感あふれる映像に没入する感覚が味わえる。水中のシーンが多いので、暗いシーンが多く、映像描写は甘くなりがちだが、それでも魅力的な映像を提供している。IMAXシーンの1.90:1のシーンによるアクションシーンは、迫力がある。
音響は12.1chのサウンドトラックで構成され、まさに音の渦に巻き込まれるような感覚を味わうことができる。音響による映画への没入感は素晴らしく、通常館の5.1chサラウンドでは体験できないものになっている。DOLBY CINEMAでのDOLBY ATMOSだったら、この体験に匹敵する音響を提供できると思う。
おまけ映像は1つだけあるが、他の映画とのリンクではなく、前作「ブラックパンサー」との関係を示唆するものになっている。そういう意味では、前作「ブラックパンサー」だけ見ていれば、この「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」は理解しやすいものになっていると思うので、ハードルは低いと思う。
同日に新海誠監督の「すずめの戸締まり」が公開されたため、IMAX上映が昼と深夜の2回しか上映されず、そのためにファンが昼の回に集中してしまい、金曜日だというのにIMAXシアター収容人員の9割程度は埋まっていたかとは思うが、これは傑作なので、映画ファン、特に洋画ファンは見逃してはならないと思う。例え、2-3ヶ月後にDisney+で見放題配信が開始されるのがわかっているとしても。
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