マーベル・シネマティック・ユニバースのフェイズ5の最初の作品になったのが、「アントマン」シリーズの第三弾、「アントマン&ワスプ:クアントマニア」である。「アントマン」シリーズにしては、やたらとスケールが大きい作品で、後の「アベンジャーズ:ザ・カーン・ダイナスティ」に繋がる重要な作品になっている。
「アントマン」らしくないスケールの大きな作品と書いたが、物語のベースは家族の愛がテーマになっている。アントマンことスコット・ラングと娘のキャシー、彼ら二人と肉親も同然の愛情を抱えているハンク・ピム博士、ジャネット、ホープのピム家族三人との合計五人の家族が、量子世界に入り込んでしまい、その異次元世界からどう脱出するかというのが、物語の骨子である。
その一方で、キャシーが正義のために量子世界に秩序をもたらそうと奮戦し、それに引っ張られる形で親であるスコットとホープたちが量子世界の秩序を破壊し、量子世界やそれだけでなく時間そのものを支配しようとする征服者カーンと対決するという物語ももうひとつの柱として存在している。そして、カーンは時間軸ごとに一人いるようなので、この「アントマン&ワスプ:クアントマニア」に登場するカーンを倒したからと言っても、脅威が去ったそうでもなさそうである。その辺の戦いは、「アベンジャーズ:ザ・カーン・ダイナスティ」かDisney+のドラマ「ロキ:シーズン2」辺りで描かれるだろう。
「アントマン」らしくないスケールの大きな作品と書いたが、描かれる量子世界でのカーンと元々量子世界で生きてきた生命体との戦いはまるで悪夢のような映像で、「アントマン」の世界観の中で「ドクター・ストレンジ」の映像描写を行ったらどうなるか、という見本のような映像に仕上がっている。アントマンが多数現れるシーンは悪夢そのものである。
前作「アントマン&ワスプ」で、ホープの母であり、ハンクの妻であるジャネットが閉じ込められていた量子世界から現実世界に戻ってきたが、ジャネットは量子世界のことを家族に一言も話さなかったため、この「アントマン&ワスプ:クアントマニア」では、スコットたちが量子世界の乱れた秩序に混乱する様子が描かれ、それが物語の謎を深める要因になっている。そして、ジャネットがカーンを征服者とは知らずに救ってしまったことから、この混乱が始まっているため、ジャネットにも責任はあり、ジャネットが乱れた秩序を治めるためのアクションをしているところはある。
ビル・マーレイも映画に登場しているが、ゲスト出演同然の扱いであり、物語に深くは絡んでいない。むしろ、一作目に登場してスコットと対決を繰り広げたダレンが再登場し、物語に深く絡んでくるのは面白い。ダレンもカーンの手下も同然であり、ダレンがスコットやキャシーたちを追い詰めていくのは、ある意味分かりやすい敵だろうと思う。もちろん、最恐の敵、カーンの存在感には敵わないのだが。カーンの存在そのものの恐怖感は、まだ最大限は発揮されていないと思う。その鱗片は、オマケ映像で描かれるが。
オマケ映像は2つあるので、エンドクレジットが終わっても席を立たない方が賢明である。特に最後の方は、意外なキャラが登場するので、見逃してはいけないと思う。今後のマーベル・シネマティック・ユニバースを占う意味で。
映像はIMAX 3Dで提供されているが、3D効果はあまり感じない。なんとなく4Kテレビで高精細の映像を見ている時のような没入感並の奥行き感ぐらいしか感じられない。ただ、量子世界の鮮やかな色調は魅力されるところがあり、明るい映像と相まって、映像の効果を発揮している。
音響は12トラックのイマーシヴサラウンドであるが、その音の包囲感や移動感は見事なものである。常識では考えられない異世界の環境音を素晴らしく生み出すことに成功している。
「アントマン」の世界観で描かれるらしくない映画ではあるが、それだけに大スクリーンとサラウンド音響で楽しめる映画館で見る価値はあるとは思う。ただ、マーベル・シネマティック・ユニバースを見ていない人には、設定がわかりづらいとは思う。
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