小室哲哉著「CAROLの意味」enterbrain

TM NETWORKの代表作と言えば多分、1988年リリースのアルバム「CAROL」になるのではないかと思う。TM唯一のミリオンセラーになったアルバムである。この作品は、ミュージカル仕様になっていて、そのミュージカルのストーリー部分を、メンバーである木根尚登が小説として残している。今回TM NETWORKのリーダーである小室哲哉が書き下ろした「CAROLの意味」は、木根尚登の記した「CAROL」とは似ても似つかない展開になっている。共通点はある。登場人物にCAROLという女性がいること、彼女はガボール・スクリーンというバンドのファンであること、ガボール・スクリーンのあるアルバムがファンや批評家から酷評を受けたこと、1991年にロンドンのビッグ・ベンの鐘の音が消えたこと、である。でもそれらの共通点がありながら、ストーリーは全然異なる。木根尚登の作り出した「CAROL」がファンタジーなのに対し、小室哲哉のはもっと現実的である。総勢10人に及ぶ登場人物が、SNSを通じて実際の交流を図り、1991年のビッグ・ベンの音が消えた真相を探す、という展開になっている。そしてガボール・スクリーンのメンバーの一人、ジルが2014年になって福島でライブを行うという、いわくつきの展開が待ち受けている。それでも小室の言いたかったことは、たぶん音楽が世界を救う、ということではなかったかと思う。それが本当かどうかはわからない。ただ、ストーリーを読んでいると、そういう感触を受けるのである。小室版CAROLは耳が聞こえない聴覚障害者として描かれ、それゆえに独特の感性を持っているという話になっている。もう一人難聴者であるM子という女性も現れ、耳が聞こえないがゆえに音楽に対して敏感であるという能力をもって描かれている。そうした話と、最後はジャカルタまで話が飛ぶ展開には、予想もつかないものがある。さすがに作家としての才能までは小室は持ってはいないが、読みこなすだけの容易さを持ち合わせてはいるようである。今回購入したのは、この本の世界観を楽曲で再現する「password」という曲のダウンロードができる版である。この曲はかなり前衛的で、小室がどういう意識でこの本を書いたのかが理解できる。

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