下川裕治著「僕はこんなふうに旅をしてきた」朝日文庫

12万円で世界を歩く」で作家デビューをしてから30数年が経過している旅行作家の下川裕治が、デビュー後書いた書籍の中から面白いエピソードを選りすぐって一冊にまとめた本が、この「僕はこんなふうに旅をしてきた」である。僕も結構下川裕治の著作物は読んでいるとは思ったのだが、この本のエピソードは知らない話も多く、結構楽しく読める内容だった。

なにせ下川裕治といえば、貧乏旅行の達人、アジアの達人と言われる人である。東南アジアを中心に抱腹絶倒なエピソードがいろいろ書かれていて、普通の観光旅行では体験できないような事件に遭遇した話がこれでもかと込められているので、読んでいて楽しいのである。後書きでは下川裕治は「僕の事件遭遇時の焦りも理解してほしい」と書いてはいるが、読者側としてはやはりとんでもない事件の発生とその顛末にほっこりしてしまうのである。

ただ、この本に欠点がないわけでもない。というのも選りすぐりエピソードの集大成なので、どことなく本全体が映画の予告編のような面白いエピソードだけ抜き出した感が強く、本としてのまとまりに欠ける部分が無にしもあらずなのである。それは当然のことで、元々はどこかへの旅行をしたときの一つのまとまった執筆物から一部分だけ抜き出した文章を再構成によって本に仕立て上げているのだから、エピソードごとに関連性があるわけではなく、ぶつぶつそのエピソードが浮き上がっている感が否めないのである。まあ、この本のエピソードで面白い部分があったら、そのエピソードが収録されている原本を入手すればいいだけだが。

僕がこれまで読んできた下川裕治の著作物の中で選び抜かれたエピソードを再読すると、どこの部分を面白いと判断したかがわかるので、それはそれで興味深い点ではある。意外な本から選び抜かれているところもあり、何冊も著作物がある下川裕治らしいセレクトだと思う。

下川裕治の著作物を読んだことのない人にとっては、一種のサンプル的内容の本であるので、気軽に読める内容ではないかなと思う。旅行が好きというのが前提だけれど。

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