藤井誠二著「誰も書かなかった 玉城デニーの青春 -もう一つの沖縄戦後史」光文社

タイトルだけ見ても、「玉城デニーって誰だ?」と思う人も多いのではないかと思う。でも、マスコミが報道しているので、なんとなく知っている人もいるかもしれない。2022年9月の沖縄県知事選挙で2期目の当選を決めた現沖縄県知事の玉城デニー氏のことである。「沖縄アンダーグラウンド」で、戦後沖縄の闇の部分を炙り出したノンフィクションライターの藤井誠二が次に取り組んだのは、沖縄県知事である玉城デニー氏の半生を調べ尽くし、彼を取り巻く人々の証言を元に、玉城デニー氏とはどういう人間なのか、彼が生きてきた戦後沖縄とは何なのかを描き出した力作が、この「誰も書かなかった 玉城デニーの青春 -もう一つの沖縄戦後史」である。

僕は沖縄の魅力に取り憑かれていて、沖縄関連の書物もいくつか読んできてはいたが、沖縄県知事である玉城デニー氏のことは名前ぐらいしか知らなかった。日本本土のマスコミが米軍普天間基地の辺野古への移設に絡んで日本政府と対立している人という程度しか報じていないからである。でも、この本を読んでその内容の面白さにどんどんページが進んでいった。そして、本を読み進めるうちに玉城デニー氏が何者なのかということについて理解することにより、彼の現在の立ち位置が明確に見えてくるようになっていった。

名前からわかるかもしれないが、玉城デニー氏は混血児である。戦後の米軍の兵士と沖縄人の母との間に生まれた子供であり、混血児であったがために子供の頃は差別を受けてきた。それでも玉城デニー氏は性格を捻じ曲げることなく素直に成長し、学生時代はロックバンドでボーカルを担当し、社会人になってからは福祉の仕事につき、それからなぜかロックバンドのマネージャーなどを経験し、ラジオのパーソナリティを長年務め、突然那覇市議選挙に出馬して当選し、その後は政治畑を歩んで沖縄県知事に至る、という半生を辿っている。

その半生自体が面白いのだが、玉城デニー氏の性格が彼を取り巻く人々から語られるのを読むにつれ、なぜ、玉城デニー氏が今、沖縄県知事でいられるのか、日本政府と対立しているのかが理解でき、日本政府が行なっている米軍基地の辺野古への移転は間違っている、という認識をさせるだけの説得力を持って本は書かれている。この本を読んでいる最中、沖縄県知事選挙の真っ最中であり、玉城デニー氏が再選されるとわかった時の日本本土の知ったか風の個人の見解がネット上に吹き荒れていて、それに違和感を感じていた僕としては、この本を読破し終わって、玉城デニー氏の性格を知ることで、今の沖縄を代表する人間として玉城デニー氏ほど最適な人間はいない、と確信できるだけのものがあった。

そして、玉城デニー氏の半生を語ることで、戦後沖縄のもう一つの歴史が炙り出されていて、それがまた興味深い。この本を読めば、なぜ沖縄が日本本土の見解に反対するのかがわかると思う。この本を読んでも分からない人は、多分沖縄に寄り添えない人だと思う。

藤井誠二は「沖縄アンダーグラウンド」でも圧倒的調査、取材で戦後沖縄を炙り出してきたが、この本でもそれは継続していて、日本本土の人がわからない戦後沖縄の真相が見えてくる。そういう意味では、沖縄の立ち位置を理解したい人にはお勧めできる本である。ソフトカバーの単行本なので、少し値段は高いが、読むだけの価値はある本に仕上がっている。

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