文:藤井誠二、写真:ジャン松元「沖縄ひとモノガタリ」琉球新報社

ここのところ、ノンフィクションライターの藤井誠二が著作した本を読む機会が多い。その大半が沖縄を扱った作品なのだが、今回読んだ本「沖縄ひとモノガタリ」だけは、最近になるまで手に入れることはなかった。それは、この本が沖縄のマスコミである琉球新報社から出版されている沖縄本であり、日本本土で入手するのが難しかったからである。たまたま、Twitterで藤井誠二本人が「Amazonでも購入可能になりました」というツイートをしていたのを見て、Amazonで検索をかけると、確かに取り扱っていたので、では読んでみるか、と思い購入した次第である。

本を買う前は、藤井誠二が沖縄に縁のある人たちにインタビューをした新聞記事をまとめたものになっているとだけ認識していたが、本が届いて読み出すと、意識が変わった。まず、この本は藤井誠二だけが関わっているわけではなく、藤井誠二がインタビューした人たちのポートレート写真を撮っていたジャン松元の存在が大きいことに気づいたのである。名前が示す通り、ジャン松元は混血である。そのために子供の頃は相当いじめられたとあり、それが彼のアイデンティティになっている面がある。本にはインタビューした人のポートレート写真の他に、ジャン松元が撮った風景写真なども一緒に入っているが、それらが沖縄を鋭く切り取っていて、インパクトがある。僕も行ったことのある宜野湾の三角食堂の夜の写真などは、ゾクゾクした覚えがある。

また、藤井誠二がインタビューした人たちも、名前だけは知っている人が意外と多いことにも気づいた。藤井誠二が「タビリスタ」という双葉社の旅行サイトで日記を不定期に綴っていて、そこに色々な人々の名前が出てくるが、そういう人たちに対するインタビューが繰り広げられていたり、僕が2022年10月8-9日に沖縄に旅行に行ってからTwitterや映画などで知った沖縄に関係したり、暮らしたりしている人々がインタビューに登場したりして、沖縄の世界がかなり狭いことがよくわかる内容になっている。

肝心のインタビューの内容も、インタビューを受ける人の壮絶な半生を読むにつれ、それでも現在を肯定していく生き方に、共感を覚えると同時に、ここまで前向きな生き方をしている人たちが多くいるんだ、という実感をしていて、登場人物の人生に思いを馳せるところが多かった。

解説には沖縄移住ブームの先駆けを作った仲村清司が文章を書いていて、藤井誠二との関係性の深さを改めて思い知らされる次第である。仲村清司自身は最近は沖縄には住んでいなくて、ネット上での情報発信もなく、どうしているのか気になっていたところでもあるが、まだ、藤井誠二との交流関係は続いているのを確認し、嬉しくなる思いである。

出版社が琉球新報社なので、日本本土での入手は難しい方の本で、今はAmazonで取り扱いがあるから少しは入手しやすくなってはいると思うが、それでもこの本自体は沖縄県民に向けた本であるという立ち位置にあることには変わりないと思う。日本本土に住み、旅行者の立ち位置で沖縄に触れている者としては、藤井誠二のような半移住生活を続けているノンフィクションライターの立ち位置で書いた文章を読むのが、沖縄との程よい距離感を保てるのではないかと思う。誰にでもお勧めできる本ではないかもしれないが、沖縄病にかかっている人には、読んで欲しい本である。

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